世界のマッサージをめぐる旅-第4回 タイ古式マッサージ

身体を伸ばして、ほぐして、整える。タイに受け継がれてきた伝統のマッサージ
タイマッサージと聞くと、身体を大きく伸ばしたり、施術者が肘や膝を使ったりする光景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
日本でもよく知られているタイマッサージですが、なぜあれほど身体を伸ばすのか、なぜ手だけでなく肘や膝まで使うのか。その理由を知ると、タイマッサージが少し違って見えてきます。
今回は世界のマッサージをめぐる旅として、まずはその特徴から、タイに受け継がれてきた歴史や文化まで少し掘り下げてご紹介します。
タイマッサージって、どんなマッサージ?
タイマッサージの大きな特徴は、身体への圧とストレッチを組み合わせていることです。
一般的なオイルマッサージのようにベッドに横になって筋肉を揉みほぐすだけではなく、施術者が身体を支えながら、脚や腕、背中などをゆっくり伸ばしたり、ひねったりしていきます。
指や手のひらだけでなく、前腕、肘、膝、足などを使うこともあります。これは単に強い力を加えるためではありません。広い範囲にゆっくり圧を加えたり、施術者自身の体重を利用して身体を支えたりするためです。
一般的にはオイルを使わず、ゆったりとした衣服を着たまま受けられるのも特徴です。
身体を伸ばしてもらう心地よさがあるため、座っている時間が長い方や、身体のこわばりが気になる方、一般的なマッサージとは少し違った施術を体験してみたい方にもおすすめです。
なぜ二人で行うヨガと呼ばれる?
タイマッサージを見ていると、ヨガのポーズを思わせる動きがいくつも登場します。
ただし、自分でポーズを取る必要はありません。施術者に身体を預け、支えてもらいながらゆっくりと伸ばしていきます。
その姿から、タイマッサージは二人で行うヨガと表現されることがあります。また、自分で頑張って身体を動かす必要がないことから、海外では Lazy Man’s Yoga (怠け者のヨガ)と呼ばれることもあります。
ヨガは苦手という方でも、タイマッサージなら身体の力を抜いて施術者に動きを委ねることができます。
マッサージを受けながらストレッチもしてもらう。この少し不思議な組み合わせが、タイマッサージならではの魅力です。
身体をめぐるセンという考え方
では、なぜタイマッサージでは身体を押したり伸ばしたりするのでしょうか。
その背景にあるのが、タイ伝統医学に伝わるセンという考え方です。
タイでは古くから、身体には生命エネルギーが流れる経路があると考えられてきました。タイマッサージでは、そのセンという考え方に基づき、身体に圧を加えたり、ストレッチを行ったりする技法が受け継がれてきました。
中国伝統医学の経絡を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、同じものではありません。それぞれ異なる文化や伝統医学の中で発展してきた考え方です。
センは現代の解剖学で確認できる血管や神経とは異なります。それでも、この考え方が長い間受け継がれてきたことを知ると、タイマッサージの独特な動きにも文化的な背景があることが見えてきます。
タイマッサージはどこから生まれた?
タイマッサージの起源については、約2500年前にブッダの主治医を務めたと伝えられるシヴァカ・コマラパという人物の名前がよく登場します。
ただし、シヴァカが現在のタイマッサージを考案したという歴史的な記録が残っているわけではありません。タイ伝統医学の世界で、その精神的な祖として敬われてきた人物です。
現在のタイマッサージにつながる伝統は、タイで古くから伝えられてきた身体のケアに、インドなど周辺地域の医学や文化からの影響も加わり、長い年月をかけて形づくられてきたと考えられています。
つまり、誰か一人が発明したマッサージではありません。
さまざまな土地から伝わった知識と、タイの人々が暮らしの中で培ってきた知恵。それらが何世代にもわたって受け継がれ、現在のタイマッサージへとつながっているのです。
ワット・ポーはマッサージの学校でもあった?
バンコクを訪れたことがある方なら、巨大な涅槃仏で有名なワット・ポーをご存じかもしれません。
実はこの寺院、タイ伝統医学やタイマッサージとも深い関わりがあります。
19世紀、ラーマ3世の時代に、それまで伝えられてきた医学や健康に関する知識がワット・ポーに集められました。寺院には人体やセンなどに関する図や碑文が残され、知識を広く伝える場所としての役割も果たしました。
医学書を誰もが簡単に手に入れられる時代ではありません。ワット・ポーはお寺であると同時に、人々が知識を学べる場所でもあったのです。
現在もワット・ポーは、タイ伝統医学やタイマッサージを学ぶ場所として世界的に知られています。
巨大な涅槃仏を見に訪れたことがある方も、実はその境内にタイマッサージの歴史が刻まれていたと知ると、少し意外に感じるのではないでしょうか。
王族と庶民ではマッサージが違った?
タイマッサージには、もうひとつ興味深い歴史があります。
伝統的なタイマッサージには、宮廷で発展したスタイルと、人々の暮らしの中で受け継がれてきたスタイルがあるとされています。
王族に施術する場合には、身体への触れ方や距離にも礼儀が求められました。そのため宮廷では、手や指を中心に使い、受け手との距離にも配慮した技法が発達したとされています。
一方、人々の間で受け継がれたスタイルでは、手だけでなく肘や膝、足なども使う、より自由でダイナミックな施術が行われてきました。
同じタイマッサージでも、誰に施術するかによって方法が違っていたというのは、当時のタイ社会を映し出しているようで興味深いところです。
今ではユネスコ無形文化遺産に
人から人へと受け継がれてきたタイマッサージは、2019年にヌアッド・タイとしてユネスコ無形文化遺産に登録されました。
無形文化遺産とは、建築物や遺跡ではなく、世代を超えて伝えられてきた伝統や知識、技術などを守り、次の世代へ受け継いでいくためのものです。
私たちが現在スパで気軽に体験できるタイマッサージの背景には、こうして何世代にもわたって伝えられてきたタイの文化があります。
歴史を知ると、いつものマッサージが少し違って見える
身体を伸ばすストレッチ、手だけでなく全身を使った施術、そしてその背景にあるセンという伝統的な考え方。
一見すると独特に見えるタイマッサージの動きにも、それぞれ長い歴史と文化があります。
マンダラ・スパでも、タイマッサージをお楽しみいただけます。
ゆったりとした服装で身体を預けながら、タイで長く受け継がれてきた伝統の施術を、ハワイで体験してみてはいかがでしょうか。
